旧インフォテイメント研究所・作成論文一覧

インフォテイメント研究所は、サイトを移転しました。

移転先サイトへ進む

 

The website of the Infotainment Research Center has been readressed to the new website.

Please click here to move to the Center's new website.

 

 

 

 

 

旧インフォテイメント研究所・作成論文一覧

The list of studies published by the Infortainment Research Center

 

1.今次インフレ期における家計の期待インフレの不安定性 2023/11月 HTML本文  

 PDF ダウンロード - e69c9fe5be85e382a4e383b3e38395e383ace6af94e8bc83pdf.pdf

 

2.家計のリスク資産形成策を批判的に検証する 2023/6月 HTML本文

PDF ダウンロード - e697a5e7b1b3e58db1e999bae8b387e794a3e69c80e7b582pdf.pdf

 

3.職場を利用したファイナンシャル・ウェルビーイング向上策(FWP) 2023/5月 HTML本文

PDF ダウンロード - fbe38395e382a1e382a4e3838ae383abpdf.pdf 

 

4. 行動経済学の金融政策への応用 2022/10月 HTML本文

PDF ダウンロード - e694bfe7ad96e382b3e3839fe383a5e3838be382b1e383bce382b7e383a7e383b3pdf2.pdf

 

5. なぜ女性の金融リテラシーが男性より低いことが問題なのか 2022/5月 HTML本文

PDF ダウンロード - e794b7e5a5b3e5b7aepdf.pdf

 

6. 急増する米国詐欺被害と金融教育の重要性 2022/4月 HTML本文

PDF ダウンロード - e7b1b3e59bbde8a990e6acba0416pdf.pdf

 

 

(English version published by the Infotainment Research Center)

 

1. Japanese Households' Financial Asset Allocation: A Critical Study of the Government's Asset Relocation Policy,   June 2023  HTML version

PDF Download  - portfoliofinal20pdf.pdf

 

2. Application of Behaviral Economics to the Central Bank's Communication with the General Public,  Jan. 2023 HTML Version

PDF Download - e694bfe7ad96e382b3e3839fe383a5e3838be382b1e383bce382b7e383a7e383b3e68a95e7a8bfe794a8pdf.pdf

 

3. Gender Gap in Financial Literacy: A Case Study of Japan,   Nov. 2022 HTML version  

PDF Download - e5a5b3e680a7e381aee383aae38386e383a9e382b7e383bce88bb1e8aa9ee69c80e7b582.pdf

 

2023年11月16日 (木)

今次インフレ期における家計の期待インフレの不安定性

わが国の期待インフレ率は、今次インフレ期にCPI上昇率を上回る水準まで上昇しており、安定しているとは言い難い。これは、欧米諸国の調査との比較からも裏付けられている。

» 続きを読む

2023年7月 2日 (日)

Summary of "Japanese Households' Financial Asset Allocation: A Critical Study of the Government's Asset Relocation Policy" (Power Point Style)

These Power points are the summary of the latest study " Japanese Households' Financial Asset Allocation: A Critical Study of the Government's Asset Relocation Policy"

» 続きを読む

2023年6月26日 (月)

Japanese Households' Financial Asset Allocation: a Critical Study of the Government's Asset Relocation Policy

This study critically analyzes the Japanese government's policy to shift households' financial assets from bank deposit to investment instruments.

» 続きを読む

2023年6月 9日 (金)

家計のリスク資産形成策を批判的に検証する

本稿では、家計の金融資産形成の問題、特に、「貯蓄から投資へ」と言うリスク資産形成策をデータに基づき批判的に検討する

» 続きを読む

職場を利用したファイナンシャル・ウェルビーイング向上策(FWP)

本稿では、ファイナンシャル・ウェルビーイング(FB)の概念の紹介および欧米で活発化している企業主体による従業員のFB改善策(ファイナンシャル・ウェルビーイング・プログラム<FWP>)について説明する。

» 続きを読む

2023年1月17日 (火)

Application of Behavioral Economics to the Central Bank’s Communication with the General Public

This study discusses the behavioral bias affecting the central bank’s communication with the general public and proposes measures to improve communication efficiency by deploying behavioral economics.

» 続きを読む

2022年11月30日 (水)

Gender Gap in Financial Literacy: A Case Study of Japan

This study discussed the gender gap in financial literacy in Japan. Specifically, we proposed two questions, as given below. (1) Why is the gender gap observed? (2) What are the implications of gender gap for Japanese women?

» 続きを読む

2022年10月30日 (日)

行動経済学の金融政策への応用

本稿では、応用範囲の広い行動経済学の知見を、中央銀行の金融政策に活用する方法を検討する。

» 続きを読む

2022年5月13日 (金)

なぜ女性の金融リテラシーが男性よりも低いことが問題なのか

なぜ女性の金融リテラシーは、男性よりも低いのか、また、それがなぜ問題なのか、説明します。

» 続きを読む

2022年4月16日 (土)

急増する米国の詐欺被害と金融教育の重要性

 

         急増する米国の詐欺被害と金融教育の重要性
                 インフォテイメント研究所論文 執筆者:福原敏恭 2022.4.15

(要旨)

 わが国同様、米国でも消費者をターゲットとした詐欺被害が急増している。詐欺の
類も、還付金詐欺(納税詐欺)やオレオレ詐欺、サポート詐欺などが横行しており、
最近
のコロナ禍では、ロマンス詐欺など新手の詐欺も増えている。年間の被害金額
規模は、
わが国の 10 倍以上に達しており、米国連邦議会上院も相談窓口を設ける
など、各種対
策が講じられている。


 詐欺被害者の調査や学術研究の面でも米国は、わが国に比べ進んでいる。例えば、
金融業規制機構(FINRA)は、詐欺犯に接した 1,408 名を調査し、被害者の特徴と

して以下の諸点を見出した。すなわち、①電話に比べ、ウェブサイトやソーシャル
メディ
アでは、犯人に誘導されやすいこと、②犯人が政府機関や銀行等の職員に
なりすまし
たり、犯人からの申し出を判断する際に時間的余裕が与えられなかったり
するなど、い
わゆる説得的話法が用いられると騙されやすいこと、③孤独感が強い人、
金融リテラシ
ーが低い人ほど騙されやすいこと、④金融機関の窓口やスーパーのレジ係
など第三者
の介入が有効であること、などである。


 広島大学が実施したわが国の被害者調査の結果と照合すると、日米で共通する詐
欺被害者の特徴として、①金融リテラシーが高いほど詐欺被害に遭いにくいこと、
②逆
に、孤独感が強い人は被害に遭いやすいこと、の2点が判明した。金融リテラシー
の向
上を図るためには、金融教育が重要である。金融教育は、家計管理や資産運用
の効率
化などを目的として実施されているが、詐欺被害の抑制にも資することから、
より幅広い
層への強力な普及活動が望まれる。

 また、詐欺対策の広報面では、詐欺ストーリーの周知のみならず、説得的話法のテク
ニックなど詐欺被害に至る基本的なメカニズムについても消費者の理解を深めていくこ
とも重要である

 

pdfファイル ダウンロード - e7b1b3e59bbde8a990e6acba0416pdf.pdf

 




infotain.research@gmail.com。all rights reserved。引用の際には、出所を明記して下さい。





(はじめに)

特殊詐欺被害は2021年中、1.4万件、金額にして278億円に上っています。一件当たりの被害金額も、約200万円と相当な金額です[1]

最も多い手口は、件数ベースでは、還付金詐欺(28%)、被害金額ベースでは、オレオレ詐欺(32%)です。また、オレオレ詐欺に最近急増している預貯金詐欺[2]とキャッシュカード詐欺を加えた広義のオレオレ型詐欺でみると、件数ベース、金額ベースともに全被害の56%と過半を占めています。

特殊詐欺の犯人は、「大事な鞄を電車の中に置き忘れた」、「医療還付金がある」、「キャッシュカードが不正利用されているので、カードを確認する必要がある」などと持ちかけて現金やキャッシュカードを詐取しています。いずれの詐欺でも、忘れ物や還付金、キャッシュカードなど日常生活でありふれた出来事やサービスを口実にしていますので、詐欺はわが国固有の犯罪のようなイメージがありますが、実はそうではありません。

欧米諸国などでもわが国と似たような詐欺は存在し、かつ、増加傾向を辿っています。また、詐欺被害者を対象とした調査や心理学を中心とした学術調査などでは、わが国よりも先行している例も多々見受けられます。

そこで本稿では、米国の詐欺被害状況や被害者の特徴を紹介した後、わが国の同様な被害者調査と比較することで詐欺被害者の特徴を見ていきたいと思います。

 

 

1.急増する米国の詐欺被害

米国でも消費者を対象とした詐欺は増加しています。連邦取引委員会(FTC)の資料によると、詐欺件数、被害金額ともに近年増加傾向を辿っています[3]

なお、同資料における「詐欺」にはわが国の特殊詐欺に該当するもの以外にも、インターネットを通じた不正売買、宝くじが当選したと偽って手数料を詐取するなど幅広い詐欺行為が含まれています。そこで、詐欺被害のうち、子供や孫、政府機関や金融機関などになりすまして金を詐取するいわゆる「なりすまし詐欺」だけをとりだしても近年急増していることが確認できます。

ちなみに米国の被害規模を「なりすまし詐欺」ベースでみると、2021年中では約2,800億円(23.3億ドルを1ドル=120円で換算)と詐欺の定義や人口規模の差異があるにせよ、わが国の特殊詐欺被害(278億円)の約10倍の規模となっており、詐欺被害が深刻なことがわかります。

ちなみに、FTCが2017年に実施した特別調査をみると、2017年中の詐欺犯罪の被害者は全消費者の9.7%に上っています(なお、同調査の詐欺行為には、不正販売等わが国の特殊詐欺よりも幅広い定義が用いられています)[4]

また、米国連邦議会の高齢者特別委員会は、高齢者の深刻な詐欺被害に鑑み、2015年以降、詐欺被害を電話報告できるホットラインを設けています。2015〜2020年の6年間に8,402件の被害報告があり、報告件数の順位は以下の通りです[5]

第1位……政府機関職員へのなりすまし詐欺。なかでもIRS(内国歳入庁)の職員を騙って、確定申告に不備があり、「急いで追加納付をしないと逮捕する」と電話口で脅す手口が横行している。

第2位……宝くじ詐欺。「あなたは高額の宝くじに当選したが、くじを換金するために、手数料の払込みが必要」と実在の会社を騙り、電話や郵便でアプローチする。

第3位……ロボコール詐欺。専用機械による自動ダイヤル機能を利用して、網羅的に大量の電話をかけ、その電話に反応した消費者をターゲットとして、公的機関等を騙り、詐欺話を持ちかける。

第4位……サポート詐欺。インターネット使用中に「ウイルスに感染しました!」、「パスワード情報がリスクに晒されています!」等の警告画面が表示され、サポートと称して不正に料金等を詐取するもの。

第5位……オレオレ詐欺。高齢者を対象に、「孫が警察に留置された」、「急病で入院した」などと偽り、気が動転した被害者から金銭を詐取。わが国の場合と同様、周囲の人には連絡しないように口止めしたり、声がおかしいと言われたら自動車事故で鼻を骨折したためなどと弁解したりする。子供をだしに使うわが国のオレオレ詐欺と異なり、孫が引き合いに出され、高齢者にターゲットを絞っている点が興味深い[6]

上記のように、米国でも深刻な詐欺被害を抱えています。このため、政府・学会・シンクタンクなどの関係者が、詐欺被害の防止策を研究しており、その中でも、どのようなタイプの人が詐欺被害に遭いやすいか、という属性調査が進められています。詐欺被害に遭いやすい人の特徴が判明すれば、詐欺対策や広報活動の範囲を絞り込める上、効果的な詐欺対策も見つけやすくなるためです。次章では、こうした米国の詐欺被害者の属性調査の結果を紹介します。

 

[1] 警察庁(2022)参照。

[2] 預貯金詐欺とは、税務署員や自治体職員になりすまし、「医療費の払い戻しがあるのでキャッシュカードの確認や取替えが必要」といって、キャッシュカードを騙し取るもの。

[3] FTC(2022a)参照。

[4] FTC(2019)参照。

[5] U.S. Senate(2021)参照。

[6] なお、オレオレ詐欺対策として、同報告書は、①どんなに切迫した状態だと電話で言われても、急に行動は起こさないこと、②他人には答えられないような質問(母親の旧姓など)をして、本当に孫であるかどうか確かめる、③自分の手元にある電話番号で相手にかけ直す、④他言無用と言われても周囲と相談する、を挙げている。

 



2. 詐欺被害者の属性調査

米国の金融業規制機構(FINRA)は、スタンフォード大学などと協力して、詐欺被害を当局に報告した1,408名を対象として15分間のオンライン調査を実施しました[1]。対象者は、①詐欺だとわかって即座に断ったグループ、②当初は詐欺だと知らず、犯人と応対したが、金品の被害は免れたグループ、③金銭被害を被ってしまったグループ、の3グループから構成されています。

本調査の目的は、詐欺の撃退に成功した人と、被害に遭ってしまった人の属性や行動パターンの違いを比較することで、詐欺被害を免れる方法などを探り、詐欺防止教育に役立てることにあります。以下、調査結果の概要を紹介します。

(1)詐欺にあったときの対応

1,408名の調査対象者のうち、詐欺を見破り相手にしなかった人が47%。相手にしてしまったが、金銭的被害は免れた人が、30%。金銭的被害を被った人の割合は、全体の23%となっています。

(2)詐欺の種類別の金銭損失率

調査対象となった詐欺の種類を件数の多い順に見ると、①サポート詐欺、②納税詐欺、③フィッシング詐欺、④インターネット上の不正販売、の順となっています。また、詐欺種類別に報告件数に占める金銭被害率を見ると、①インターネット上の不正販売(47%)、②サポート詐欺(32%)、③偽小切手詐欺[2](22%)、④宝くじ詐欺(15%)、⑤納税詐欺(3%)の順となっています。

インターネット上の不正販売やパソコンサポート詐欺など、インターネットを利用した詐欺行為では、金銭被害率が非常に高い一方、納税詐欺などの被害率はかなり低くなっているなど、詐欺タイプによって、被害率に大きな差が生じています。

(3)犯人からのアプローチ方法

次に、犯人からどのような手段でアプローチがあったかをみると、電話が最も多く、ついで、電子メール、ウエブサイト・ソーシャルメディア、郵便の順となっています。また、アプローチ別に撃退率(すぐに詐欺であることを見破って、犯人との接触を断つことができた)をみると、ウェブサイト・ソーシャルメディアが極端に低くなっている一方、その他の手段では6割程度となっています。

 (4)金銭的被害に至った理由(自己申請)

被害者に詐欺被害に至った理由を1〜7の7点満点(1が「全く同意できない」、7が「強く同意する」)で指摘してもらった結果を集計しています。その結果を見てまず目につくのは、最終的金銭的被害を被ったグループの方が、全体的にスコアが高くなっている、つまり思い当たる節が多々あることです。

例えば、左端の「偽者とは気づかず」は詐欺犯人が、公的機関・警察・銀行・親族の勤務先・投資会社などと名乗り、あらゆる手段を使って被害者にそのことを信じ込ませようとするわけですが、それがかなりの割合で成功していることを示しています。

また、二番目にスコアが高い、「時間的制約を受けた」とは、例えば、儲け話であれば、「今すぐ決断をしないと二度と同様の機会は訪れない」などと脅したり、オレオレ詐欺であれば、「会社の鞄を無くしたが、今日中に鞄の中に入れていた現金を返却する必要がある」などと被害者にプレッシャーをかけたりすることを指します。このように期限を切って指示した行動を迫る方法は、詐欺手法で頻繁に使われます。会話を通じて相手を自分の望む行動に誘導するテクニックである説得的話法[3]の中でも時間的切迫性として重要なツールの一つとなっています。

前述(3)の犯人からのアプローチ方法でみたように、ウエブサイトを通じた詐欺行為は、被害者が偽者だと見抜くのが難しく、金銭的被害を被る割合も他の手段に比べて非常に高くなっています。詐欺犯人は、電子メールのリンクなどから実在する公的機関・会社を騙るホームページなどに誘導して、不正課金や不正売買等を行います。こうした詐欺行為から身を守るためには、電子メールのリンクや取引相手を安易に信用せず、ホームページを自分で検索し直す、などの自己防衛手段を日頃から心がけるようにしたいものです。

(5)孤独感

詐欺被害に遭いやすい人の特徴としては、孤独感・疎外感が強かったり、親しい人が周囲にいなかったりする人は、そうでない人よりも、金銭的被害に遭いやすいことがわかっています。「孤独感=一人暮らし」とは限らず、本調査では、孤独感を自己評価で測定しています。

また、前述のFTCの調査では、過去二年間に離婚や失業など重大なネガティブ・イベントを経験した人は、詐欺被害率が、そうでない人に比べ倍増するとの結果が得られています。

一方、性別や人種、学歴、仕事の有無などは、金銭被害率には影響はありませんでした。

(6)金融リテラシー

金融商品に関する基本的な知識(金融リテラシー)を5問出題し、金融リテラシーと詐欺犯人への対応の関係を見ると、①詐欺犯人を相手にしなかったグループでは、3.3点であったのに対し、②相手にしたグループは、3.0点、③金銭的被害を被ったグループは2.7点、と金融リテラシーが高い人ほど、詐欺犯人を撃退できる可能性が高くなることがわかりました。

(7)送金時の第三者の介入

詐欺に巻き込まれたグループの20%が、銀行や送金会社の窓口係員などの第三者が送金の際に詐欺を疑い注意を促してきた、と回答しています。米国でも、銀行・小売店は大金の引き出しや高額のギフトカードの購入など、詐欺行為特有の行動に注意するように関係者の訓練・教育を行なっています。

このような第三者の介入によって、詐欺犯の指示によって送金しようとしていた被害者の51%が送金を思いとどまったと報告しています。わが国同様、送金時の介入は、詐欺防止の最後の機会、かつ効果的な抑止方法ですので、米国でも重要視されています。

詐欺犯の要求に基づいて送金をしようとしている被害者は、(4)で紹介した説得テクニック(説得話法)の影響で、一種の興奮状態に陥り、一刻も早く送金しようと行動している場合が多いので、第三者の冷静な介入は効果的です。

(8)詐欺被害者に対するイメージ

調査対象者が、詐欺被害者をどう見ているか尋ねています。その結果、詐欺を撃退したグループのみならず、金銭的被害を被ったグループにおいても、36%が「詐欺被害に遭ったのは被害者自身に非がある」と回答しています。

また、別の米国調査では、詐欺被害者の65%が金銭的被害に加え、ストレスや健康面の問題など非金銭的な被害を被っていることがわかっています。また、被害者の47%が自責の念に捉われており、これが詐欺被害を当局に報告しない(過小報告)現象を生み出しているようです。

(9)金銭的被害を免れた理由

金銭的被害を免れたグループにその理由を尋ねた結果、まず詐欺犯人を相手にしなかったグループでは、「詐欺一般について知っていた」、「詐欺行為について聞いたことがあった」、「詐欺の具体的な手口を知っていた」など、詐欺犯がアプローチをする以前に見聞きした知識が役立ったとする解答が大半を占めました。

一方、詐欺犯人の相手をしてしまったが被害は免れたグループでは、「何かおかしいと思った」が71%の高水準に達し、ついで、「詐欺内容を調べた」、「詐欺の相手を調べた」など詐欺犯からのアプローチがあってから、自分で検索・調査し、被害を免れた格好となっています。

逆に、金銭的被害に至ったグループの場合、詐欺犯からの申し出をその場で家族など周囲の人と相談しなかった、あるいは、相談する人がいなかった場合に被害に遭う可能性が高まっていることも判明しています((5)の孤独感と関連)。

こうしたことから、①日頃からの情報収集の重要性、②直感を大事にする、③周囲の人と相談してから決断する、④詐欺犯人からの申し出を自分で検索・調査する、といった予防策が重要であることがわかります。

なお、連邦取引委員会(FTC)は詐欺行為を判別するための4つの兆候を以下の通り公表しています。

  • 政府など権威を騙る……ナンバーディスプレイを政府の電話番号に変えてしまうこともある。
  • 電話口で何らかの問題が発生した、ないし、大きな利益を得る機会が発生したなどと騙る。
  • 即座に行動するように、プレシャーをかけ、考える余裕を与えない……息子を訴える、逮捕するなどと脅かすことも。
  • 要求した金銭をギフトカードなど特定の方法で支払うように言ってくる。

(10)詐欺に関する情報入手

最後に、詐欺に関する情報入手先をみると、テレビニュースが5割を超えており、周知効果が高いことがわかります。2番目には、周囲との会話・口コミが挙げられています。また、各種ホームページやソーシャルメディアなどインターネットの利用も4割程度となっています。この間、詐欺に関する広報資料やセミナー参加は、20%が望ましい情報源としながらも、実際の利用は7%にとどまっており、詐欺対策の広報活動の難しさを物語っています。

 

[1] FINRA(2019)参照。

[2] 米国では個人も小切手を買い物などの決済手段として利用する習慣が残っている。このため、犯人が表示金額の大きい偽小切手を被害者に渡すかわりに、手数料などの名目で現金を詐取する詐欺が存在する。

[3] 説得話法とは、信憑性(政府関係者や銀行員等であると名乗る)、希少性(決断までの時間や商品の数が限られているからと決断を迫る)、感情喚起(恐怖喚起<会社をクビになってしまうなどの脅し>、利益勧誘<必ず儲かるなどと説得>)などの話法を用いて相手を自分の望む行動に誘導すること。詳しくは福原(2017)参照。





 

3.日米の詐欺被害者属性の共通点

前章では、米国の詐欺被害者調査の結果を紹介しましたが、次に、わが国で行われた同様の調査結果を簡単に紹介し、日米に共通する詐欺被害者の属性を検討してみたいと思います。

広島大学では2020年、全国約17,000世帯(有効回答数11,218世帯)を対象に過去三年間の特殊詐欺被害の有無と回答者の社会経済的属性を調査しています。同調査は、被害者属性を含む調査としては、わが国初の試みです[1]。その結果を分析した論文によると、まず、過去三年間に何らかの詐欺を経験した割合は、4.97%となっています。その内訳を見ると、架空請求詐欺が3.44%、融資保証詐欺が1.16%、還付金詐欺が0.87%となっています。

被害者に遭いやすい人の特徴としては、特殊詐欺の種類によってバラツキが大きいものの、女性より男性、20〜40歳と65歳以上、平均より高い資産保有額、軽率な購買行動などが挙げられています。その一方、学歴や、雇用状況、年収、老後の心配、家計満足度などの調査項目は被害率とは無関係でした。

本調査で特筆すべきは、特殊詐欺のタイプを問わず、①金融リテラシーが高い人は、詐欺被害に遭いにくいこと、②逆に、孤独感が強い人は被害に遭いやすいことを指摘している点です。両者ともまさしく、前章の米国調査で指摘されていた点と一致します(金融リテラシーについては、第2章の(6)「金融リテラシー」と図表8、孤独感については、同(5)「孤独感」と図表7に示されています)。

なぜ日米共通の被害者属性として金融リテラシーと孤独感が挙げられるのでしょうか。前章(10)「被害を免れた理由」でみたとおり、詐欺犯を相手にしなかったグループは、撃退の理由について、「事前に詐欺全般について知っていた」、「手口について聞いたことがあった」を挙げています。このことは、このグループの人たちは、日頃から金融関係の情報をアクティブに収集していること意味し、金融リテラシーが高いこととも整合的です。また、情報収集に長けていれば、詐欺犯からアプローチがあってからも、自分で検索・調査し詐欺を見破ることでも被害を免れる可能性が高まります。

また、孤独感についても、日米共に、単なる一人暮らしという括りではなく、自己採点に基づいて評価を行なっています。その結果、前章(5)でみたように、孤独感が強い人は、詐欺犯からの申し出を周囲の人と相談しなかったたり、相談する人がいないため、詐欺被害に遭いやすくなってしまいます。

また、日米調査でこうした共通項が見つかるということは、詐欺の手法に共通点があることを示唆しています。その根幹となるのが、前章の(4)で少し触れた心理学を応用した説得的話法の悪用です。詐欺犯は、説得的話法のテクニックを応用して、政府関係者や公務員など公的機関の職員を騙ったり、「お宅の息子さんが交通事故に遭った」など恐怖を喚起したり、「今すぐ現金が必要だ」と迫ったりします。その結果、被害者は犯人の望んだ行動をとるようにしむけられてしまいます。

詐欺犯が持ちかけるストーリーや送金手段等は、当然のことながら、社会環境や慣行、その時々の流行などを映じて日米で異なっていて当然です。しかし、会話の根幹をなす部分では、犯人が説得話法を用いて心理面の動揺を誘い、一種の興奮状態に陥らせて金銭を詐取しようとするテクニックは共通しています。詐欺被害の予防を考える際には、詐欺犯のストーリーを周知することにとどまらず、詐欺被害の基本的なメカニズムについても消費者の理解を深めていくことが、効果的な詐欺予防策につながると考えられます。

 

4. コロナ禍で急増するロマンス詐欺

(1)ロマンス詐欺の急増

わが国同様、米国でもコロナ禍を悪用した新しいタイプの詐欺が増加しているようです。例えば、①新型コロナの予防法・治療法と称して公認されていない医療行為を売り込む、②ワクチン接種や抗体反応テストを受けるためと称して、手数料名義の金銭を要求したり、個人情報を聞き出したりする、③サプリメントなどをコロナ治療薬として売り込む、④コロナ禍に苦しむ人への経済的援助をソーシャルメディア上で応募し、応募者の個人情報を盗み取る、などです。

第1章でとりあげたFTC(連邦取引委員会)のまとめによると、コロナ禍に関連した詐欺行為は、2021/6月までに50万件以上の苦情が寄せられ、被害額が4.6億ドル(1ドル=120円換算で552億円)に上っています。

特筆すべきは、FTCや連邦議会上院の報告書が、コロナ禍でいわゆるロマンス詐欺の急増に警告を鳴らしていることです。ロマンス詐欺は、デート系サイトや、フェイスブックやインスタグラムなどで犯人側から突然連絡があることから始まります。犯人は、インターネットで見つけた魅力的なプロフィール写真を添付し、(事前に被害者の公開されているプロフィールから探し出した)共通の趣味があるなどとアピールしてきます。コロナ禍でのロマンス詐欺急増の背景には、リモートワークの普及で自宅からのSNS利用ニーズの急増が挙げられます。

犯人側は、SNSを通じて頻繁に被害者にアピールしてくる反面、遠隔地に居住している、兵役中であるなど様々な言い訳で、「面会はできない」と言い張ります。その一方で、自分に健康問題が生じた、失業した、ロックダウンで帰宅できない、などコロナ禍の影響にかこつけて被害者の同情を引こうとすると共に、「金銭的に困っているから送金して欲しい」と訴えてきます。

こうした要請に対し被害者は、送金することが人助けになると思い込み、しばしば、犯人に言われるがまま、振り込んでしまうようです。さらに、こうした送金はしばしば複数回に及ぶことが多いようです。これに加え、悪質なケースでは、「相続した現金や仕事上の売上金を運ぶのを手伝って欲しい」と犯人から要請され、これに応じてしまうと、犯罪行為によって獲得した資金の洗浄(マネーロンダリング)という別の犯罪に加担したことになってしまうので注意が必要です。

ロマンス詐欺には、他の詐欺にない特徴が二つあります。

第一は、詐欺の性質上、被害者の当惑から他の詐欺に比べても、当局への過小報告が大きく、被害の全貌が見極めにくいことです。

第二は、他の詐欺に比べ、一件当たりの被害額が大きくなる傾向があることです。被害額は、年齢とともに増加する傾向があります。例えば平均損害は、30代が約2,000ドルであるのに対し、70代以上は9,000ドルに達しています[2]

(2)ロマンス詐欺対策

連邦議会報告書では以下の注意点を呼び掛けています。

  • 犯人の写真・プロファイル・名前をインターネットで検索し、犯人以外にも該当者がいないかどうか、確認する。
  • 自分の写真を相手に安易に送らない。また、ソーシャルメディア上に自分の趣味などを掲載するのは、慎重にする。
  • 犯人側は性急に、二人の出会いは「運命」、「定め」などと畳み掛けてくるので、警戒する。また、相手に幾つもの質問をする。
  • 相手が安易にオフラインに移行したがったり、話がうますぎると感じたりしたら、警戒する。
  • ソーシャルメディアで相手から昼夜関係なく、素早い返答が返ってくるようであれば、警戒する。
  • 面会を約束しても口実を設けていつもキャンセルする場合には注意する。
  • インターネット上でしか知らない相手に金銭を送ってはならない。
  • 他人の送金に自分や友人・親族の銀行口座の利用を許してはならない。

 

(おわりに)

以上みてきたように、米国でもわが国同様、消費者をターゲットとした詐欺被害が急増しています。第一章で紹介したように、詐欺の種類も、還付金詐欺(納税詐欺)やオレオレ詐欺、サポート詐欺などが横行しており、最近のコロナ禍ではロマンス詐欺など新手の詐欺も増えています。年間の被害金額規模は、わが国の10倍以上に達しており、米国連邦議会上院も相談窓口を設けるなど、各種対策が講じられています。

第二章で米国の詐欺被害者の属性調査の結果を紹介しましたが、①電話に比べ、ウェブサイトやソーシャルメディアでは、犯人に誘導されやすいこと、②犯人が政府機関や銀行等の職員になりすましたり、犯人からの申し出を判断する際に時間的余裕が与えられなかったりするなど説得的話法が用いられると騙されやすいこと、③孤独感が強い人、金融リテラシーが低い人ほど、騙されやすいこと、④金融機関の窓口やスーパーのレジ係など第三者の介入が有効であること、などが明らかになっています。

第三章では、日米で共通する詐欺被害者の特徴点として、①金融リテラシーが高いほど詐欺被害に遭いにくいこと、②逆に、孤独感が強い人は被害に遭いやすいこと、を紹介しました。金融リテラシーの向上を図るためには、金融教育が重要です。金融教育は、家計管理や資産運用の効率化などを目的として実施されていますが、詐欺被害の抑制にも資することから、より幅広い層への強力な普及活動が望まれるところです。

また、詐欺対策の広報面では、詐欺ストーリーの周知のみならず、説得的話法のテクニックなど詐欺被害に至る基本的なメカニズムについても、消費者の理解を深めていくことも重要です。

以 上

 

 

 

(参考文献)

Federal Trade Commission (FTC) (2019) “Mass-Market Consumer Fraud in the United States: A 2017 Update”, Keith B. Anderson, October 2019

——— (2022a) “Consumer Sentinel Network Data Book”

——— (2022b) Data Spotlight “Reports of Romance Scams Hit Record Highs in 2021”

FINRA Investor Education Foundation (FINRA) (2019) “Exposed to Scams What Separates Victims from Non-Victims?”

Kadoya et al. (2021) “Who Is Next? A study on Victims of Financial Fraud in Japan” Yoshihiko Kadoya, Mostafa Saidur Rahim Khan, Jin Narumoto, Satoshi Watanebe, Frontiers in Psychology, July 2021

U.S. Senate(2021) “Fighting Fraud: Senate Aging Committee Identifies Top 5 Scams Targeting Our Nation’s Seniors Since 2015,” United States Senate Special Committee on Aging

警察庁(2022) 「令和3年における特殊詐欺の認知・検挙状況等について」

広島大学(2021)「特殊詐欺被害の軽減に金融リテラシーの向上が有効である可能性を提示しました〜特殊詐欺被害リスクを軽減させる方策に科学的なエビデンスを提示〜」、広島大学広報グループ、 2021年7月

福原敏恭(2017)「行動経済学を応用した消費者詐欺被害の予防に関する一考察」、金融広報中央委員会、2017年

 

 

[1] 広島大学(2021)およびKadoya et al. (2021)参照。なお、内閣府は、特殊詐欺に関する世論調査を2017年に実施しているが、詐欺被害経験者に限定した設問は設けていない。

[2] FTC(2022b)参照。

 

» 続きを読む

最近のコメント

カテゴリー

無料ブログはココログ

ウェブページ